大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋地方裁判所 昭和57年(ワ)120号 判決 1985年3月18日

原告 小川馨

右訴訟代理人弁護士 小栗孝夫

同 小栗厚紀

同 榊原章夫

同 石畔重次

同 渥美裕資

被告 宮田栄夫

右訴訟代理人弁護士 伊藤典男

同 伊藤誠一

同 神田勝吾

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、別紙目録(三)記載の建物のうち同目録(四)記載の部分を収去せよ。

2  被告は、別紙目録(二)記載の土地上に地上三階以上の建物を築造してはならない。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  相隣関係

(一) 原告は、別紙目録(五)記載の建物(以下「原告建物」といい、その敷地を「原告土地」という。)を所有し、右建物に家族三名とともに居住している。

(二) 被告は、原告土地の南に接する別紙目録(一)記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有し、同地上に木造平家建居宅(貸家)を所有していたが老朽化したためこれを取壊して昭和五六年一〇月二七日右土地上に鉄筋コンクリート三階建共同住宅の建築工事に着工し、現在これを完成し同目録(三)記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

2  本件建物による日照被害の発生、程度

(一) 原告は本件建物建築前は原告建物に対する南側からの良好な日照を享受し、家族三名と共に快適な生活をしてきたものであるが、本件建物の建築により右の日照に重大な影響を受けるに至った。

(二) 日照被害の程度

本件建物による原告建物に対する日照被害は、その南面主要開口部の平均地盤面から四メートル(原告建物二階床面から約一メートル)の位置において、冬至の場合午前八時三〇分から午後四時までの七時間三〇分で、わずかに午前八時から三〇分程度日照を得られるものの、午前八時台の日照は日の出直後の弱光であるうえ極めて入射角度が大きいため現実的には日照効果はなく、立春の場合は午前一〇時から午後四時までの六時間であるが、午前九時以降には既に日照被害が二階の相当部分に及びわずかに建具上部に漏れ日があたる程度であり、春(秋)分の場合は午後一時から同三時までの二時間にわたり日照被害がある。右日照被害の結果、原告建物の室内照度は著しく低下し昼間から照明器具を必要とする状態であり、また、冬期における室温も本件建物建築前原告建物と類似の日照環境にあった訴外小川重一宅及び同小川博宅と比較して五度ないし一〇度ほど低下し光熱費の著しい増加を余儀なくされるなど、原告の生活に重大な被害が発生している。

なお、被告が本件建築工事前建物三階西側につき主張にかかる設計変更をなしたことは認めるが、右設計変更は、春(秋)分前後一、二か月については日照被害を若干改善するものの、最も重要な冬至前後二、三か月については何らの効果もなく日照を終日えられないという状況に変化はない。

これに対し、本件建物中別紙目録(四)記載の部分(以下「収去部分」という。)を除外し、本件建物西側を二階建とした場合の原告建物に対する日照被害は、前記日照被害と比較して冬至の場合二時間程度軽微となり、しかも日照を得られる時間帯が午前一一時から午後一時であるからその意義は重大であり、また、春(秋)分の場合は前記日照被害はほとんど解消される。

3  日照被害をめぐる諸事情について

(一) 地域性

本件土地の地域指定は準工業地域であって、本件建物は高さが九・四五メートルで一〇メートルを超えないため建築基準法及び名古屋市中高層建築物指導要綱の日影規則を受けない公法上適法な建物ではあるが、本件土地及び原告土地を含む街区は住居のみで町工場すらなくその現況は住居地域であって、その西側及び南側に広がる地域も大部分が一、二階建の住居ないし共同住宅で三階建以上の中高層建物はほとんどなく、本件建物は地域的にみて不均衡であり突出している。

(二) 被害回避可能性のないこと

原告は、当初一階建であった所有建物を昭和五四年に二階建に増築したばかりであり、かつ原告建物は北側一杯に建てられているので、現在これを三階建にしたり原告建物又は二階部分を更に北側に移動させるなどして前記日照被害を回避することは困難であり、また、原告建物の二階東側及び西側には開口部の設けられていない部分があるが、右部分に新たに開口部を設けることは建物の構造上困難であるから、原告自らは前記日照被害を回避することはできない。

(三) 加害建物の用途・加害回避の可能性

本件建物は、賃貸を目的として建築された共同住宅で公共性、社会的有用性はなく、建物の建築資金の借入、返済等を含めた現実の金の流れを基準とした資金繰予想によれば、その収支差額累計が黒字に転換するのは、収去部分を収去した場合でもこれを完成させた場合に比して実質一年程度遅れるにすぎず、収去部分の収去によって被告の受ける損害と収去部分によって原告の被る日照被害を比較した場合後者がはるかに重大である。

(四) 当事者の交渉経過

原告は、昭和五六年一〇月初旬ころ本件建物の建築計画が明らかにされたため直ちに被告に対し日照問題に関する話し合いを申し入れ、その後三、四回にわたり被告との間で協議の場をもったが合意をえられず、被告において右協議を打ち切り同月二七日本件建物の建築工事に着工したため、同月三〇日名古屋地方裁判所に対し本件建物につき地上三階建以上の建築工事の禁止を求める仮処分の申請をなし、同裁判所は、右事件につき五回の審尋期日(同年一一月九日、同月二四日、同年一二月一日、同月八日、同月一六日)を開き、同月二四日保証金一五〇万円を条件に本件建物西側について地上三階建以上の建物の築造を禁止する旨の仮処分決定を出し、右決定正本は同月二六日午前一一時五五分被告訴訟代理人弁護士伊藤典男に送達されたが、被告は右仮処分決定が出されることを予測し、敢えて同日午前八時ころから本件建物三階のコンクリート工事を施行し右決定送達時には右工事を終了してしまい、右仮処分決定の執行を免かれた。

4  結論

以上のとおり、被告の本件建物の建築は原告建物に対する日照を著しく妨害し原告の快適な生活を営む権利、すなわち人格権を侵害しており、その程度は社会生活上一般に受忍すべき限度を超え、違法なものというべきであるから、原告は被告に対し、人格権に基づき請求の趣旨記載の判決を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)(二)の事実は認める。

2  同2(一)の事実のうち、原告が本件建物建築前は原告建物に対する南側からの良好な日照を享受してきたこと、及び本件建物の建築により日照に影響が生じていることは認め、その余は争う。

同2(二)の事実は争う。

原告建物は、平均地盤面から四メートル(原告建物二階床面から約一メートル)の位置において、まず建物南側においては、冬至の場合午前八時から同八時三〇分までの三〇分、立春の場合午前八時から同一〇時までの二時間、そして春(秋)分の場合午前八時から午後四時までの終日にわたりそれぞれ日照を得ることができ、次に建物東側においては、冬至の場合午前八時から同一〇時までの二時間、立春の場合午前八時から同一一時三〇分までの三時間三〇分、そして春(秋)分の場合午前八時から同一二時までの四時間にわたりそれぞれ日照を得ることができる。

3  3(一)の事実のうち、本件土地の地域指定が準工業地域であって、本件建物が高さが九・四五メートルで一〇メートルを超えないため建築基準法及び名古屋市中高層建築物指導要綱の日影規制を受けない公法上適法な建物であることは認め、その余は争う。

本件土地は国道二二号線沿いにあり、その地域指定は準工業地域であって、その沿線には名糖アダムス株式会社、児玉物産株式会社、東洋レーヨン株式会社、ジーンズショップエイワ、名糖産業株式会社、佐伯株式会社等の三階ないし六階建の建物が建築されており、また、国道二二号線は昭和三八年一〇月旧国道二二号線のバイパスとして開通されて以来その交通量は年々増加し、それとともにその沿線は市街化として逐次整備されており、その沿線の建物も地価の昂騰に伴う高度利用により日に日に中高層建物が建築されて高層化の傾向を強めているのであって、本件土地は将来商業地域の用途地域に変更される可能性が高い。

同3(二)の事実のうち、原告が昭和五四年に当初一階建であった所有建物を二階建に増築したことは認め、その余は否認する。

現在原告建物は境界から三・五ないし三・七メートル北の位置に建てられているが、右建物二階部分を境界から五メートル北の位置に移動すれば前記日照時間はほぼ倍の数値になるのであって、本件増築当時、被告は本件土地の近くに宮田第一ビル(四階建建物)を既に建築完成しており、また、本件土地上の平家建居宅(貸家)は老朽化していたものであるから、原告は本件土地上の右建物が近々建て替えられる可能性があること及びそのときには高層化の建物が建築されるであろうことを当然予見できたものというべく、従って、原告は本件増築の際原告建物二階部分を境界から五メートル北の位置に建てることによって前記日照被害を回避することができたものであり、また、原告建物の二階東側及び西側には開口部の設けられていない部分があり、原告は右部分に開口部を設置して日照時間の増加及び日照エネルギーの吸収を図ることも可能である。

同3(三)の事実のうち、本件建物が賃貸を目的として建築された共同住宅であることは認め、その余は争う。

本件建物は、平家建居宅(貸家)が老朽化しそのまま放置すれば防犯防災上も問題となるために建築されたもので、本件建物は耐火性、耐震性等に考慮が払われた建物で当該地域における防犯防災措置の実現という公益上の目的をも併有している。

同3(四)の事実のうち、被告が原告主張の仮処分決定が出されることを予測し敢えて本件建物三階のコンクリート工事を施行し右仮処分決定の執行を免かれたとの点は否認し、その余は認める。

被告は、当初三階建建物について建築確認申請をなし、昭和五六年一〇月一四日名古屋市から建築確認を得たが、原告との紛争を回避し少しでも誠意を示して友好な相隣関係を維持するために、三階西側一戸につき北側の一部屋を削除するという内容の設計変更をなし、かつ原告土地との境界からの後退距離を二五センチメートルから五〇センチメートルに変更し、同月二三日名古屋市に対し従前の建築確認申請を取下げると同時に改めて右設計変更後の建築計画をもって建築確認申請をなし、同月二六日新たに建築確認をえたものである。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因1(一)(二)の事実(相隣関係)及び原告は本件建物が建築される以前は原告建物に対する南側からの良好な日照を享受してきたが、本件建物の建築により日照に影響が生じていることは当事者間に争いがない。

しかるところ原告の本訴請求は、右日照被害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超え原告の人格権を侵害するとして、その侵害排除のため本件建物中収去部分の収去を求めるものである。およそ、右請求の当否は、日照が原告建物を所有、居住して享受する生活上の重要な利益であると認められる一方、被告においても本件土地の所有権に基づいて同地上に本件建物を建築所有するものであるから、右各権利の性質、日照被害の具体的状況、相隣関係及び地域性からみた本件建物の形式的実質的違法性の存否程度、収去部分を収去するか否かによる当事者双方の利害の較量等諸般の事情を総合して、その被害の程度が社会生活上一般に受忍すべき限度を超え原告の人格権を侵害するにいたったと認められるか否かの問題に帰すると解されるから、以下この見地から順次検討する。

二  そこで先ず、本件建物による原告建物に対する日照被害の状況についてみるに、《証拠省略》並びに前記争いのない事実(相隣関係)を総合すれば、本件土地と原告土地とはほぼ南北に接し、本件建物は両土地境界から南側五〇センチメートルの東西の線を北端として垂直に高さ約九・四五メートルの三階建鉄筋コンクリート造りの建物であり、原告建物は右境界から約三・七五メートル北側の東西の線を南端として垂直に高さ約六メートル(二階の庇まで)の木造二階建の建物(三・三メートルの高さに奥行約一メートルの庇がありその上面は二階のベランダとなっている。)であり、その一、二階の南面は両側各一メートルの部分を除きほぼ全面ガラス戸であり、本件建物が建築される以前は年中良好な日照を享受してきたが、本件建物により日照全般に相当の影響が出たものと認められる。そして、これを計数的に見るについては、平均地盤面から四メートル(原告建物二階床面から約一メートル)の位置において、その南面主要開口部については午前八時から午後四時までの間を、その東面主要開口部については午前八時から同一二時までの間をそれぞれ基準にして考察するのを相当とするところ、《証拠省略》によれば、原告建物は、その南面主要開口部において、冬至の場合午前八時三〇分から午後四時までの七時間三〇分にわたり日照被害を受けており、わずかに午前八時から三〇分程度日照を得られるものの日の出直後の弱光であるためその効果はほとんど期待することができず、立春の場合の日照被害は午前一〇時から午後四時までの六時間であるが、午前九時以降には既に一部日照被害が生じており、春(秋)分の場合は午後一時から同四時までの三時間にわたり一部日照被害があること、また、その東面主要開口部において、冬至の場合の日照被害は午前一〇時少し前から同一二時までの二時間強であるが、午前九時少しすぎぐらいからは一部日照被害が生じ始めており、立春の場合も午前一〇時から同一二時までの二時間にわたり一部日照被害があるが、春(秋)分の場合には日照被害はないこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。次に前記日照被害の原告の生活に対する影響の点についてみるに、《証拠省略》によれば、本件建物建築当時、原告建物には原告夫婦と子供二人(一人は高校生で、もう一人は中学生である。)が生活しており前記日照被害の結果、原告建物は室内照度が低下して昼間から暗く、原告及びその家族が原告建物にいるときは照明器具を使わなければ書物も読めない状態であること、また、冬期における原告建物の室温も本件建物建築前原告建物と類似の日照環境にあった訴外小川重一宅及び同小川博宅と比較して午後になると相当低いため、原告は本件建物建築前に比して光熱費の著しい増加を余儀なくされたこと、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

更に、前記検証の結果及び原告の供述によれば、原告建物は本件土地の北側一杯に建てられているので、原告建物自体の北への移動を可能にする余地はないこと、また、原告建物のうち二階部分は北をあけて南側に建てられており、かつその東側及び西側には開口部の設けられていない部分があるが、費用のほか建物構造の点でそれぞれ困難であることが認められ、一方《証拠省略》によれば、被告は、原告の申出により本件建物建築前建物三階西側一戸につき北側の一部屋を削除するという内容の設計変更をなしたけれども、右設計変更は、春(秋)分の場合には日照被害の程度を若干改善するものの、冬至及び立春の場合には何ら効果を及ぼしておらず、前記認定のとおり六時間ないし七時間三〇分にわたって日照を得られないという状況に変化はないこと、これに対し、本件建物中収去部分を収去して本件建物西側を二階建とした場合の原告建物に対する日照被害の程度は、前記日照被害と比較して、その南面主要開口部において、冬至の場合二時間程度減少して午前一一時から午後一時にかけて日照を得ることができ、春(秋)分の場合には前記日照被害はほとんど解消されること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  次に前記日照被害をめぐる諸事情についてみるに、

1  《証拠省略》によれば、本件土地及び原告土地を含む街区はすべて住居ないし共同住宅であって本件建物を除いては三階建以上の中高層建物はないが、その西側及び南側に広がる地域は若干の三階建以上の中高層建物があり商店、倉庫等が混在し、本件建物の北東数十メートルを走る国道二二号線は昭和三八年一〇月に旧国道二二号線のバイパスとして開通され、その交通量は年々増加して名古屋市内でも屈指の道路であり、その沿線は南から北にむかって順次商業地域、準工業地域、近隣商業地域に指定されていること、右沿線のうち準工業地域に指定されている地域には、現在東洋レーヨン株式会社等の三階ないし六階建の中高層建物が建築されていること、本件土地及び原告土地を含む街区も準工業地域に指定されており、同地域における建物の高層化は今後とも続くであろうと予測されること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

2  本件建物が平家建居宅(貸家)を取壊して建築された共同住宅で賃貸を目的とする建物であることは当事者間に争いがなく、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件建物は、平家建居宅(貸家)が老朽化しこれをそのまま放置すれば防犯防災上も問題となることもあって建築されたもので、その建築にあたっては耐火性、耐震性等について考慮が払われたこと、従って、本件建物は主として金銭的利益を目的とするものであるが、当該地域における防犯防災措置の実現という公益上の目的をも併有していることを認めることができ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

3  《証拠省略》によれば、被告は、当初三階建物について建築確認申請をなして建築確認を得たが、原告との紛争を回避するため、三階西側一戸につき北側の一部屋を削除するという内容の設計変更をなし、かつ原告土地との境界からの後退距離を二五センチメートルから五〇センチメートルに変更し、右設計変更につき原告から承諾を得ることはできなかったが、名古屋市に対し従前の建築確認申請を取下げると同時に右設計変更後の建築計画をもって建築確認申請をなし、新たに建築確認を得て本件建物の建築工事に着工したことを認めることができ、他にこれを覆すに足りる証拠はない。

4  《証拠省略》によれば、本件建物は収去部分を除き住居四、店舗一ですべて賃貸されていること、収去部分の除去工事に要する費用は、全賃借人に対する一時退去に対する補償費等も見込まれ数百万円となり、また収去部分を取壊した場合とそれを完成した場合とを比較すると、その収支差額累計が黒字に転換するのは後者の方が前者に比して、相当早くなり、かつ右黒字転換後の収入超過累計において年を重ねるごとに後者は前者より有利になること、以上の事実を認めることができ、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

四  以上の認定事実により考察するに、第二項において認定した本件日照被害は、特に冬期における日照の重要性に鑑みるとその被害の程度は重大であるといわなければならず、また原告においてこれを回避することは経済的、物理的両面からも困難というほかない。

しかしながら、本件建物は建築基準法に適合し、かつ名古屋市中高層建築物指導要綱の日影規制を受けない公法上は一応適法な建物であることは当事者間に争いがなく、第三項1で認定したように今後建物の高層化が避けられないと思われる本件建物付近の地域性からみると、本件建物の建築は、これによりその隣接の建物に日照被害が発生するとしてもその建築目的の違法とか被害の異常さとか特別な事情がない限りは法の容認するものといわざるをえない。そして、本件全証拠によっても右のような特別な事情は発見できないし、むしろ第二項で認定したとおり、本件建物と原告建物の高低差は三メートル余にとどまるところ両建物の間には南北に約四メートルの空間があるため、原告建物の日照被害はその被害時間帯における暗さや圧迫感はかなり緩和されていて異常なものとはいえず、また、第三項2で認定した本件建物の建築目的及び同項3で認定した被告が本件建物建築の際とった措置からみれば被告が本件建物建築に違法な目的をもっていたとすることはできない。なお、原告は、昭和五六年一〇月三〇日被告を被申請人とし当裁判所に対し本件建物の三階以上の建築工事禁止を求める仮処分申請をし、同裁判所は五回の審尋期日を経て同年一二月二四日本件収去部分について認容の仮処分決定をし、同決定正本は同月二六日午前一一時五五分ころ被告代理人に送達されたのに、被告は同日午前中に収去部分の工事を施行したことを批難するが、決定正本送達前に工事に着手すること自体は必ずしも違法といえないうえ、被告本人尋問の結果によれば、被告は右審尋期日において裁判所及び原告代理人に対し、年末のことでもあり工事の都合上同年一二月二五日までに結論を出してほしい旨及びそれまでは工事に着手しない旨を言明し、これに従ったものと解されるから違法なものといえず、右結論を左右するものではない。

よって本件日照被害はいまだ社会生活上一般に受忍すべき限度を超えているとはいえず、なお原告において受忍すべき程度にとどまると解するのが相当である。

五  以上の次第で、原告の本訴請求をいずれも失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野達男 裁判官 岩田好二 田島清茂)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例